自分自身が指導を受けながら,博士の学位の重さをすごく感じるようになりました。
今回は,僕が感じた博士号の重さについて述べたいと思います。
法的根拠
学位については,文部科学省の省令である学位規則で定められています。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=328M50000080009
学位規則によると,学位は次の5種類があります。
専門職学位については,さらに細かい区分として修士(専門職),法務博士(専門職),教職修士(専門職)が設けられています。
ちなみに以前は「短期大学士」という学位はなく「準学士」という称号を用いていました。準学士の称号は短期大学と高等専門学校を卒業した時に与えられるものでしたが,このうち短期大学は短期大学士という学位として定められました。高等専門学校は準学士のままです。
このうち博士については,細かい定めがあります。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/004/gijiroku/attach/1327208.htm
- 大学は,博士の学位を与えた場合,学位を授与した日から3月以内に,授与した学位ごとに審査の結果と博士論文の要旨を公表すること。
- 博士の学位を授与された者は,学位を授与された日から1年以内に博士論文を印刷公表すること。
- 大学は,博士の学位を授与した時は,博士の学位授与報告書を文部科学大臣に提出すること。
法規上でも,博士号だけ扱いが異なることがわかります。
僕は上記の学位規則を見るまで知らなかったんですが,博士号については誰に博士号を授与したのかについて,文部科学大臣へ報告する義務が大学に課せられているようです。
余談
いわゆる論文博士についての規定が存在します。
修士や学士についてはそのような規定は存在しません。
したがって,「論文修士」や「論文学士」という制度は法規上,存在しません。これらの課程を卒業・修了しないともらえない学位だということです(細かいことを言うと,学位を授与する団体がある・・・短大の専攻科を修了した人が学士号を得る際など)。
実際の扱いが違う
大学の中でも学位の扱いが違います。
まず博士の学位の場合は,提出書類がとても多いです。
次に,審査における扱いが異なります。卒論や修論の場合は,いっきに発表をやってしまって,そのあとに全員分を一気にまとめて審査するという感じだと思います。いちいち,一人ひとりについて説明するということもありません。
博論(D論ともいう)の場合は,一人ひとり個別に審査されます。発表会の際にも,資格の確認(大学の学位規則の何条の要件を満たしている,とか,どの学会誌に査読論文を出したか,とか),学位規定の話とかを,丁寧に紹介されます。
さらに,発表会が終わって,そこでOKをもらってもまだ正式決定ではなく,教授会にかけられます。そこで最終判定が下り,学位を授与されることが正式に決定します。これをもって,博士課程を修了することが正式に決定します。
これについては,上記の学位規則の規定により,大学が代表として文部科学大臣へ〇〇氏に博士(〇〇学)の学位を授与したという報告をする関係で,大学の意思として学位を出す必要があるため,このような厳重な対応をしているのだと思います。
指導も違う
先生から指導を受けるわけですが,博士論文にどれだけの労力がかかっているのだろうか・・・と思うほどものすごい時間を費やしていただいたと思います。副査の先生も含めると,僕の博士論文にかけられた時間はものすごい膨大な時間です。
これを博士一人ひとりにしているのですから,一人博士を出すのにどれだけの労力がかけられるのかが,よくわかりました。博士号を出すということは,とてつもないことです。
だからこそ,活用しないと
自分自身も当然努力はするのですが,ここまでいろんな人の労力をかけて取得する学位だからこそ,博士号をただのお飾りにするなんていうことは許されないなと思いました。
もともと,博士号を取得できた暁には学位を生かしたことをしたいと思っていましたが,余計に博士号を生かさないと,社会に対して還元しないと,と思うようになりました。
博士はなんでもできる人,か?
博士の学位は世間の1%程度の人しか持っていません。
そんな学位なので,博士のことがよくわからないという方は多いと思います。
僕も,こないだこんなことを言われました。
「博士号がとれるってことは,どんな仕事でも,専門じゃないことでも,なんでもできるってことだよね。」
んー(笑)
日本の博士号は,英語ではPh.Dという表記がされますが,これが哲学の博士という意味なのだそうです。ある課題に対して論理的かつ科学的に解決し,誰もが知りえていなかった知見を見出すことができる人物,ということは言えると思います。
ただしそれは特定の分野の中で行われるものです。
例えば,工学の博士をつかまえて,
「あなた,工学の博士なんでってね。だったら,明日から国語よろしく」
なんていうことにはなりません。
おそらく,その方が「なんでもできる」といったのは,俗にいう「なんとか博士」のことだと思います。博識だという意味です。物知りな子供に「漢字博士」「昆虫博士」とか言いますよね。ああいう雰囲気です。
博士号の博士とは博識ということではなく,特定の学問分野について誰もが知りえていなかった知見を見出した人物という意味です。
ただそれを全員が知っている前提にするのもおかしいなと思いました。博士自体がマイナーな存在ですから。世間の人に知ってもらうには,博士の方が自分から積極的に話していかないといけないんだろうなと思いました。